
『一の糸』(有吉 佐和子) 新潮文庫
造り酒屋の箱入り娘として育った茜は、文楽の三味線弾き、霧沢清太郎が弾く一の糸の響きに心を奪われた。その感動は恋情へと昂っていくが、彼には所帯があった。二十年が過ぎた。清太郎は徳兵衛を襲名し、妻を亡くしていた。独身を通した茜は、偶然再会した男の求婚を受入れ、後添えとなるのだった。大正から戦後にかけて、芸道一筋に生きる男と愛に生きる女を描く波乱万丈の一代記。(背表紙より)
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文楽(人形浄瑠璃)の世界のお話です。
『大夫&三味線&人形遣いの三業で成り立つ三位一体の演芸』と言われているそうです・・・知らなかった。
紹介文だけ読むと恋愛ものっぽいですが、人生の様々な要素が含まれていて、なかなか読み応えがありました。
(以下ネタバレ)
序盤は、徳兵衛一筋な茜と何を考えているのか分からない徳兵衛の成り行きにドキドキ。
主人公の茜は、「ちょっと、よく考えなよ!」と言いたくなっちゃう、自由奔放ぶりです。
ある意味では真っ直ぐな女性とも言えるかな。
一方の徳兵衛さんは、遊びで箱入り娘の茜に手を出しちゃうわ、昔の女と縁を切る役目を茜に押し付けちゃったり、かなりどうしようもない男(笑)
でも、三味線の腕だけは確かなんですね。芸に関しては非常にストイックです。
中盤、徳兵衛の妻が亡くなった後、2人は結婚するんですが、前妻の子供の反抗や大震災、太平洋戦争などなど波乱万丈な展開です。
こうした出来事を通じて、茜が成長していく様も見所ですね。
終盤は、徳兵衛と相方である義太夫の確執を中心に話が展開していきます。
(実際に文楽の世界で起きた出来事がモチーフのようです。)
夫婦と思っていた義太夫との仲違いから、殺気ともとれるオーラを醸し出して三味線を弾く徳兵衛。
そんな自分に気付いた時、同時に彼は芸に対する崇高な思いに目覚めます。
文中では「明鏡止水」の境地と表現されていますが、ここの展開がとっても良かったです。
結末は、所謂ハッピーエンドではないけれど、読後は前向きな気持ちになれる一冊でした。
茜も徳兵衛も、己を偽らずに真っ直ぐな生き方を貫いたからなのでしょう
↓決して裕福ではない状況で、高価な一の糸をすぐに替えることに茜がケチをつけた時、徳兵衛が言った台詞。
なんか凄い!!
「三の糸が切れたら、二の糸で代わって弾ける。二の糸が切れても一の糸で二の音を出せば出せる。そやけども、一の糸が切れたときは、三味線はその場で舌を噛んで死ななならんのや。」
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